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田中豊さんには、こだわりがある。オンリーワンを目指す人だ。他人と同じことをするのが嫌いに違いない。赤と緑と黄のカラフルなトラクターに、赤い作業手袋。そして、極めつけは「太藺(ふとい)」だ。
田中さんは、「ひのみどり」の他に太藺も栽培している。太藺とは、太いイグサの呼び名で、4年くらい前に知り合いからニュージーランド産系の太い品種の種をもらってきたそうだ。奨励品種でもなければ、在来種でもない。自分がそれを植えたくて外から持ってきたのである。
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「自分が変わらないと、何も変わらない」。挑戦していかないといけないのだと、田中さんは太藺を栽培する理由を語った。
相手がどうこうではなく、自分を向上させ、成長してくのが大切なのだと。中国産に圧されるイグサ経営の打開策は、自分でいろいろと試し挑戦してみないと見つけられないのである。
「街には出ないといけない」とも田中さんは言う。刈り取り後の8月と、植え付け後の1月の年2回は時間がとれて遠出もできるらしい。関西にはよく出かけるそうで、突然に神戸の友人を訪ねたりもするそうだ。福岡にも月1回は出かけている。それというのも、一所に留まっていては、どんなものが流行っているのかも分からないし新しいアイデアも見つけられないからだ。
「何でもデカイ」のも田中さんのこだわりのようだ。トラクターも大きければ、イグサも太いし、作業納屋の天井も高い。飲んでるビールも、もちろん大瓶。ましてや、育てている野菜までも一回り大きいのには驚きだ。「名前が豊やきね。なんでも大きか」。なるほど。 |
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良い畳表とは「使う人に喜ばれて長持ちするもの」。そう言う田中さんは、使う人のために畳表を作っている。だから意見はどんどん取り入れようとする。
イグサは畳表にする際に、香りと色を持続させるために泥染めをする。良かれと思ってする作業なのだが、実はその泥を嫌がる人もたまにいるそうだ。それを知った田中さんは、早速泥の軽減を図ることにした。しかも、ここからがなんとも田中さんらしい。普通、少しずつ減らして実験してみるはずだが、田中さんは、いきなり半分の泥の量で試したのである。豪快だ。 |
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結局、半分の量でうまくいったので良かったのだが。「泥が少なくなって、消費者にも畳にも良か、生産者も経費が減って良かよ。一石三鳥たい」。なんともおいしい。
染めるといえば、イグサ農家の多くが良かれと思い着色をしていた時代があった。田中さんの家では、父母の代からずっと無着色を続けている。いや、正確に言えば、着色を試したときが2年あった。そのとき、手が荒れたりしたので、やはり無着色を続けることにしたのだそうだ。「自然な緑色が一番気持ちが良い」と田中さん。変わらなけばいけないが、変えちゃいけないものも、きっとある。 |
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(文:京田 真由子) |
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